Text: Hideto Suzuki
サイクリストにとっての素材 【Vol.1:天然繊維編】
皆さんはサイクルウェアを選ぶ際に何を基準にされていますか?
流行、ブランドの人気、デザイン、素材、機能、性能、価格、自分との相性、、、、、、などなど。
様々な事が基準となっていると思います。
皆さんそれぞれサイクルウェアに対する考え方が違って当然です!
余談ですが、私の場合は「バイクを動かすためのエンジンである自分が、このウェアを着てストレスなくクランクを回してライドを続けることができるか」を基準に考えています。
さて素材の話に入りましょう。繊維の種類というのは少し乱暴な分け方ですが、大きく分けて「天然繊維」と「化学繊維」の2種類になります。
そんなこと分かっていますよ。
と声が聞こえてきますが、まずは「天然繊維」のお話しから始めたいと思います。
天然繊維のウール
ウインターシーズンはもちろんですが、1年を通してライダーの体を包んでくれて快適にしてくれる「ウール」繊維。
それらはどんな種類があるかご存知ですか?ウール繊維といえば一般的なのは「羊の毛」ですが、他の動物の毛も多くの種類があります。
- ウール
ウールの中にも中毛種、長毛種、雑種羊毛種の羊種によって様々な分類があります。 - メリノウール
メリノウールは「メリノ種」から取れる羊毛。羊毛の中で最も上質で繊維が細く、一般的なウール繊維よりも柔らかいです。
繊細な繊維は柔らかく、チクチクしにくいので着心地の良さが実感できます。 - オーストラリア・メリノ
オーストラリア・メリノ種は、高品質の羊毛で産出が多い羊種。長くて丈夫で、しなやかで、衣料用に最も適した羊毛です。 - ニュージーランド・メリノ
ニュージーランド・メリノ種は、他の羊より成長が遅く、出生率も低いので産出は多くない。
繊維は白度があって、クリンプ(繊維の縮れ)が大きくてバルキー(膨らみ)性に富んでいる。
羊以外に山羊やラクダ類も「ウール」ですが、メリノウールより希少性が高く高価なので、ほとんどサイクリングウェアに使われることはありません。
□カシミヤ
カシミヤ山羊(Cashmere Goat)の毛。
□モヘア
アンゴラ山羊(Angora Goat)の毛。
□アルパカ
アルパカラクダ類のラマ属に属する動物の毛。
□キャメル
ラクダの毛。
□ラマ(リャマ)
ラクダ類、ラマ属に属する動物の毛。
□ビキューナ
ラクダ類、ラマ属に属する動物の毛。
□グァナコ
ラクダ類、ラマ科に属する動物の毛。
このように一般的に「ウール」と言っても多くの種類があります。
皆さんにお馴染みのウールといえば羊毛ですね。
その中でもやはり「メリノウール」と表記してある物をお勧めしたいですね。
一般的な「ウール」と比べるとその肌触りが全く違います。
つまりライダーの皮膚となり、保温や吸湿などコンディションを調整するための1レイヤーでと想定すると非常に重要です。
神経質になって吟味しても良いはずです。
もちろんファーストレイヤーだけではなく、ウールジャージはバイクパッキングや1dayトリップなどバイクで時間を楽しむライダーに最適な素材でしょう。
ここ数年でウール繊維への注目度は高まりました。
高性能なポリエステル繊維から天然繊維への原点回帰だと思います。
化学繊維の性能を高めるため改良し続け、時間、労力、エネルギーをたくさん使い、環境への影響も気になりつつ。
はっと気がついたら「ウール」の素晴らしさを忘れていた。
そんな感じではないかと私は思います。
ウールの機能性
ひとつは消臭性能、もう一つは撥水性能です。まずはサイクリストにとって重要な消臭性からお話ししましょう。
☆消臭・防臭 ウールはアンモニアを綿の4倍、酢酸はポリエステルの3.5倍の消臭性能を持っています。
肌着に多く使われる綿は、酢酸をよく消臭するようですが、アンモニアはあまり消臭できないのです。
しかし、ウールはアルカリ臭と酸性臭の両方を消臭することができる、他の繊維にはない消臭能力を持っています。
ちょっと気をつけて!臭いを吸着したままの製品をクローゼットに戻さないで。
製品から匂いが放出されて、他の衣類に匂いが移ってしまいます。
サイクルウェアを着用後に乾いたからと言って、そのままクローゼットに戻さないと思いますが。「ニオイ」をリセットするには水洗いを行なってください。
それが最も良い方法です。綿も水洗いでリセットできます。が、ポリエステルは完全にはリセット出来ないから臭いが残ってしまいます。
☆撥水性・吸湿性
ウール繊維の表面のキューティクルと呼ばれる部分は、多層構造になっています。
さらにウール表面の一番外側にあるエピキューティクルには、「18-メチルエイコサン酸(18-MEA)」が規則正しく配列されています。
それが表面で界面潤滑剤としての機能を果たすのでウールは撥水性を実現できるのです。
またウールの機能は水を弾く撥水性だけではなく、衣服内部の蒸れを防ぐ吸湿性も優れているので汗をかいてもサラッと快適に過ごすことができます。
撥水と吸湿の性能。
どんな仕組みなのか簡単に図解してお伝えしますね。
ウール繊維の通常時、キューティクルは乾燥した状態ではぴったりと閉じており、表面を覆う「18-MEA」が水を弾くようになっています。
しかし、湿気の場合は水蒸気の気体であるため、その粒子は細かく、以下の図のように、キューティクルの隙間を通って吸湿性のある皮質部分(コルテックス)に吸着されます。
図のようにキューティクルの隙間から吸湿してくれることで、衣服内は蒸れずに快適に保たれます。
逆に衣服内の湿度が下がって乾燥してくると、皮質部分(コルテックス)に吸収されていた水分は徐々にキューティクルの隙間を通って外に放出されていきます。
そして、エンドキューティクル(18-MEA)が収縮するとキューティクルは閉じて、元通りの撥水性になるというのも特徴です
蒸れてくると湿気を吸い込み、乾燥してくると湿気を放出してくれる天然の湿度調整機能が備わっています。
不快指数は温度と湿度が関係していて、ウールには湿度を調整することで快適な状態に保とうとしてくれる機能性を備えています。
この優れた性能はアクティブだけではなく、リラックスやリカバリーのシーンでも活躍することは間違いないですよ。
少し余談になりますが、昔のサイクルウェアは、トップスのジャージとボトムのショーツの上下が共にウールのニットだったことをご存知ですか。
当時の最も優れた機能素材であったと言うことの証ですね。
ダウンヒルでは新聞紙をジャージの前身(ジャージ内側)につめて防風したそうです。
新聞紙は軽くて邪魔にならず、投げ捨てても土へ戻る究極のウインドプルーフ素材ですね。
ウールの表示名は世界で色々です。
「日本では毛・ウール」
「アメリカではウール Wool」
「イタリアではラナ Lana」
購入したアイテムで確認して見てください。
先にサイクルジャージはジャージもショーツも100%ウールで作られていたと利点を中心にお話ししました。
しかし、利点ばかりではありません。
欠点としては濡れてしまうととんでもなく重くなり最悪の着心地です。
通気性に優れていたので、その欠点を我慢していたそうです。
現在では信じられませんが、その後は軽量化するためにシルク繊維が使われたそうです。
今だと価格はいくらになるんだ??
サイクリスト目線のウール素材の評価
1.保温性と通気性
ウールは保温性がありながらも通気性が優れています。
これにより、寒冷な環境での保温効果が期待できる一方で、体温調節もスムーズに行えます。
サイクリング中に発生する体温の変化に対応しやすい素材です。
2.湿度管理
ウールは湿気を吸収し、蒸散させる能力があります。
サイクリング中に発生する汗を素早く吸収し、肌から離れて素早く乾くため、快適な状態を維持できます。
3.防臭効果
ウールは天然の抗菌性を持っており、ニオイの発生を抑制する効果があります。
これにより、サイクリング中や洗濯後の臭いの心配が少なくなります。
4.伸縮性とストレッチ性
ウール繊維は柔らかく、伸縮性があります。
これにより、サイクリング中の動きに柔軟に対応し、快適な着心地を提供します。
ウール素材のウェアは寒冷な環境や長時間の活動に適していると考えられています。
また、最近では技術の進歩により、ウールと他の素材を組み合わせた高性能なサイクリングウェアも登場しています。
上記の特性がさらに向上し、サイクリストがウール繊維を選択することがさらに増えると思います。
次回は化学繊維の登場編です。